「あ、その前に怪我人は……」
「ご心配には及びません。我が商会が誇るハイポーションを配布しております」
見れば確かに、怪我を受けて倒れていた冒険者たちも完治とはいかないまでももう動けるようになっていた。
と思いきやぞろぞろと冒険者たちが集まってくる。
「君がランド君か……ありがとう。俺はアレン、一応今回の合同パーティーのリーダーをやっている」
「ああ……」
背が高い長剣使いの男だった。
一目で強いことがわかる。ゴブリンキング相手でも十分やっていけそうなほどだ。
一対一であれば、だが。
「森に入っていたメンバーも世話になったようだし本当に助かった。同行してくれるというなら、出来ればこの合同パーティーの指揮をとって欲しい」
「いやいや。勘弁してくれ」
パーティーリーダーなんて柄じゃないにも程がある。
「いいじゃない。やれば」
「逆にミルムのほうができそうだよな?」
仮にもヴァンパイアロードだし。
ロードって王だよな? という思いを目だけでミルムに訴えかけた。
「確かに私は生まれながらにして王。その才能は疑う余地がないわ」
胸を張ってドヤ顔で答えるミルム。
「だったら」
「でも……」
かと思えば途端シュンとした顔になるミルム。
「どうした……」
「私に一人も部下がいないの知ってるでしょ!」
耳元にミルムの悲痛な叫びが届いていた。
◇
「えーっと……急遽パーティーのリーダーをやらせてもらうことになった、ランドだ」
結局俺がやることになった。
それはいいんだが完全に自滅でミルムがいじけているのをなんとかしたいところだった。
「ランドってあの……」
「使い魔が全部Sランクだって……」
「勇者に嫌気がさして自分から出ていったんだろ?!」
「聖女が頭を下げて引き留めたのに応じなかったとか」
噂がもうよくわからない方向にいっていた。
「おい! じゃあ横にいるのってミルムさんなんじゃ」
ピクッとミルムが反応する。
「ギルドが臨時措置でいきなりBランクを出したんだろ?!」
ピク。
「あんなに可愛いのに強いなんて……」
ピクピク。
「むしろランドより強いって噂も……ドラゴンゾンビはミルムのほうが倒したとか……」
「ふふふ……わかってるのもいるみたいじゃない。サービスよ」
復活したミルムが突然【夜の王】を展開した。
「うわっ!?」
「なんだこれ!?」
「え……」
黒いコウモリの群れが前に並んだ冒険者たちを包み込む。
「おいおい……怪我が……!」
「ちょっと待て、俺、目が! 5年も前に見えなくなった左目が治ってる!」
「俺は足の古傷が!」
「ほんとだ!? 奇跡だ!」
黒い群れから冒険者たちが現れる。
その姿は【夜の王】に包まれる前とくらべると頼り甲斐すら感じるものになっていた。