食後、腹ごなしに『常盤の街』をウロウロする。

『常盤の街』は中華テイストの多い街だが、全てが全てと言う訳ではない。

建物は西洋風だし、チャイナドレス以外の服は基本的に他の国と大差がない。

チャイナドレスだけが広まっていると言う事は、恐らく勇者の趣味なのだろう。

……悪いとは言わない。決して、悪いとは言わない。

「あんまり、観光名所的な場所は無いな」

「観光収入を当てにしていないのでしょう。仁様には好ましくないかもしれませんが……」

俺が少し残念そうに呟くと、マリアがその理由を推測した。

『自立』が主義って言っていたし、その可能性は高いな。

「まあ、そういう土地として、楽しむのが吉だな」

「ご主人様、観光に関しては意外とポジティブよね」

「観光で訪れている以上、その土地の風習や特性は出来るだけ尊重したいからな」

観光名所がないくらいで不満は言いません(多分)。

「ただ、一部例外はあるぞ。例えば、不条理に不利益を与えるような物とか」

《ドーラのこきょー?》

「そだな」

『竜人種(ドラゴニュート)の秘境』には、「侵入者は殺す」的なルールがあった。

そう言う理不尽なルールを尊重する気はない。

結局、名所がない以上、出店を見て回る事にした。

国境近くの街と言う事も有り、人通りが多く、数多くの店が並んでいる。

街の広場には、バザーの様に地面に商品を置いている露店が多い。

食べ物を売っている屋台も多い。

「食べ物を買ってきますわ!」

《ドーラもー!》

「え、まだ食べるの?セラちゃんはともかく、ドーラちゃんまで?」

驚きつつ、食べ物への興味があるミオもセラとドーラに付いて行った。

あの2人の胃袋は底なしなのだろうか?

流石にもう食欲は無いので、俺達3人は露店を見て回る。

「人が多いと、珍品も多いな」

「そうですね……。あれは……土偶……?」

普通にアクセサリを売っている者もいれば、良く分からない骨董品のような物を売っている者もいる。

さくらが見ているのは、土偶……違う、あれは埴輪(はにわ)だ。

普通の商品の横に埴輪が大量に並んでいる。

いや、よく見れば土偶もある。たった1つだが、遮光器土偶がある。

何故異世界に埴輪がある?勇者か?え、勇者が埴輪?

ジャガイモ好きの勇者が居たのは知っているが、埴輪?埴輪は無いだろ?

気になり過ぎるので埴輪売りの元へ向かう。

店主は何処にでもいる様な中年男性(おっちゃん)。

「らっしゃい」

「店主さん、これ、何だ?」

埴輪を指差して尋ねる。

「ああ、ソイツは同じ7層の農村にいる芸術家の作品だな。全く売れないが、無下にできない相手なんで、仕方なく委託販売してるんだよ」

7層と言うのは、この国の階級制度における最下層。国の一番外側にある街や村の事だ。

1から7層まであり、1層が一番地位が高く、真紅帝国の中心に住んでいる。

「何でも、前世の記憶があるとか吹聴してて、その記憶を頼りに作ったらしいぞ。まあ、十中八九眉唾物だがな」

おっと、転生者の方でしたか。そうですか。

……それでも、埴輪を作ろうと思った経緯が謎だ。

「面白そうだな。製作者に会ってみたいんだが、どこに居るか教えてもらえるか?おっと、ソレ、1つ買うからさ」

転生者ならステータスチェックくらいしておきたい。

配下にしなくても、転生者は色々と話題に事欠かないし……。

「物好きな奴だな……。残念だが、ちょっと前に上層の貴族に連れて行かれちまったよ」

「貴族に連れて行かれる?そいつ、何をやったんだ?」

「さあな。ただ、この国では時々あるんだよ。貴族により下層の住民が上層に連れて行かれることがな。帰ってくることもあるらしいが、何をしていたのかは基本的に語らないそうだ」

転生者が上層に連れて行かれたのか。

一体、何をやっているのかね?

「なるほど、面白い話をありがとよ。それじゃあ、1つ売ってくれ」

「情報料のつもりか?このくらいの話なら、別に態々買わなくても良いぞ?」

「いや、普通に買いたくなった」

「マジかよ……。本当に物好きな奴だな。記念すべきお客様第一号だ。アイツも喜ぶだろうよ。帰って来たらの話だけどな」

と言う訳で、埴輪を1つ購入しました。

「本当に買ったんですね……」

「ああ、部屋に飾ろうと思う」

「え……?」

絶句するさくら。

L:普通に不気味で嫌なんじゃが……。

居候(エル)の意見は聞いていません。

飾ります。

全く関係のない話だけど、この後、謎の女性集団が埴輪を買い占めたそうだ。

もう1つ全く関係のない話だけど、配下のメイド達の部屋に埴輪が飾られているそうだ。

お揃い……のつもりなのかね……。

埴輪店を離れ、セラ、ドーラ、ミオの3人と合流した。

「沢山買いましたわ。皆さんも食べてくださいな」

《たべてー!》

セラは大量の食べ物を手に持っている。積み重なっているのに崩れない。

素晴らしいバランス感覚だ。無駄な技能とも言う。

「……ご主人様、それ何?」

ミオが埴輪に興味を示す。

「陶器ですわね。食器ですの?」

《かわいー!》

ドーラの感性が少し気になる。

流石の俺も、可愛いとは思っていない。

「埴輪だ。暫定転生者が作ったらしい」

「へー……。奇妙な事をする転生者も居たものね」

「マヨ……」

「ぐっ……。もうそろそろ、そのネタ止めて……」

マヨネーズでワンチャン狙って自爆した転生者のミオが呻く。

埴輪作るのとどっちがマシかな?

「考えておく」

「仁君、頑なに断言しないですよね……」

「まあな」

断言しなければ、どうしようと自由だからね。

「それと、暫定転生者は上層に連れて行かれたらしく、居場所は分からないとの事だ」

「……そう言えば、この国の皇帝も転生者なのよね?何か関係あるのかな?」

真紅帝国の皇帝、スカーレット・クリムゾンは転生者だ。

「可能性はあるが、今持っている情報だけだと、推測するにも精度が低すぎる」

「それもそうね。何なら、本人に聞けばいいわけだし……」

「ああ、それが一番手っ取り早いな」

「尋問でしたらお任せください」

この勇者(マリア)物騒である(いつも通りとも言う)。

「相変わらず、一国のトップ相手に簡単に言いますわね」

「仁君ですから……」

《ですからー!》

その後、しばらく街中をぶらついて、観光は終了することにした。

本日は『常盤の街』で一泊し、明日の朝に出発する。

宿はルージュ達が予約済みだ。

この街では最高級の宿(ホテル)であり、街の中心部、一等地に建っている。

俺達も名目上護衛なので、ルージュ達と同じ宿に泊まる。

合計14人の大所帯なので、5、5、4人で3部屋に分けた。

あまり分けすぎると護衛の意味も無くなるからな。

「疲れた……」

一番大きい部屋に全員で集まる中、ルージュがぐったりとした様子で言う。

「そんなに疲れるような事をしたのか?挨拶しに行っただけだろ?」

「その予定だったのですが、思いの他領主の上昇志向が強かったようでして……」

ミネルバに聞いたこの国の階層構造について説明しよう。

この国の住民は平民、貴族の分類の他に7段階の地位を持っている。

平民にとっては、7段階の地位=住むことのできる層となる。そして、自らの地位以上の層にある街に入る事は出来ない。外国の者も同様だ。

貴族は全ての層の街に入る事が出来るが、自らの地位を越える街では権力が弱くなる。

この地位は功績を立てる事で上げる事ができ、子供に引き継がれる。

街の領主は貴族だが、その地位は治める街の格よりも数段階高いのが基本だ。

この街の領主は、7段階の地位で言えば4層に当たり、更なる権力を求め、最上位に位置する皇族、ルージュに取り入ろうとしたそうだ。それはもう、全力で……。

「兄が選んだだけあり、領主としての能力は高いみたいだが、少々しつこすぎる。やり過ぎれば、逆に評価が低くなると言う事を分かっていないのか……」

「うん?スカーレットが選んだって言うのはどういうことだ?」

また、俺の知らないスカーレット情報が出てくるようだ。

根掘り葉掘り聞いている訳じゃないから、仕方ないと言えば仕方ないんだが……。

「また、折檻の可能性があるのか……」

「いや、そこまで重要な話でもないだろう。とりあえず、話せ」

「はい……」

『スカーレットに関連することで、重要な話を忘れていたら折檻する』という、以前の宣言はまだ生きているので、ルージュがビクビクしている。

「兄、スカーレットが皇帝になったのは今から約8年前なのだが、その時、大規模な粛清が行われたのだ。兄の『目』に適わない者は良くて平民落ち、罪を犯していたら処刑もあった」

「当時、皇帝に次ぐほどの勢力を持っていた大貴族すら、容赦なく処刑していました」

ミネルバの補足によると、それはもう大規模な粛清だったそうだ。

ただし、罪の重さ以上の裁きが下されることは無く、徹底的に公平だったとの事。

「今の領主の多く、代替わりしていない領地の領主は全員、兄が選んだのだ。私の知る限り、全員が有能と言って良いと思う。もちろん、野心は別の話だ」

この街の領主は特に野心の強い輩だったのだろう。

そして、それまでの領主が全員処罰されていると言う事も分かった。

「正直、スカーレット様の治世には不可解な点が多いのです。不正を行っていた貴族を粛正し、国内は随分と安定しました。その一方で、周辺諸国に小競り合いを仕掛け、不要なトラブルを招いています。何を考えているのか、全く分かりません」

ミネルバも首をかしげる。

「全くだ。せめて、ヴァーミリオン兄様が居ればな……」

妹ですら真意の分からない今、1番の理解者の不在が効いている。

何も考えていないとは思わないが、何を考えているかは分からない。

また、スカーレットの謎が深まっただけだったな。

「結局、スカーレットと話をしなければ何も確証を得られないって事か。スカーレットも相当な秘密主義だな」

「ご主人様程じゃないと思うわ。……案外、ご主人様と同じで、言わないんじゃなくて、言えない事が多いだけかもしれないわね」

言っても信じてもらえない。

言うと今の常識をぶち壊す事になる。

……可能性はある。

スカーレット、最終試練やこの世界の勇者についても知識があるようだし……。

「ますます、会うのが楽しみになって来たな……」

「一応、一回会ってんじゃん」

ミオが無粋なツッコミを入れる。

「あれは女王騎士(ジーン)だったからノーカン」

正直、ほとんど話も出来なかったから、会ったと言うのは抵抗がある。

「毎度のことながら、役作り(ロール)は徹底しているわね」

遊びには全力を尽くすよ。

折角、謎の騎士ジーンも有名になったんだから。

翌日、馬車で出発しようとする俺達に来客があった。

何と、この街の領主である(想定内)。

「ルージュ様、我が街の兵士が帝都まで護衛をいたしますので、そのような素性もわからぬ者を護衛にするのはお止めください」

挨拶もそこそこに領主(30代男性ややメタボ)がルージュに切り出したのはそんな話。

まあ、領主の言わんとすることは分からなくもない。

正直、俺達って護衛と言うには怪しいもの(高幼女率、軽武装)。

「1人とは言え、男を共にするなど、悪い噂でも流れたらどうなさるおつもりですか?腕利きの女性兵を集めましたので、その男を外し、彼女達を同行させてください」

領主の言わんとすることは尤もである。

ルージュも適齢期の女性だからね。

「噂など放っておけ。彼は私が最も信頼する人間の1人だ。彼を外すなど有り得ない」

ルージュがビシッと言い返す。

信頼していると言うか、信頼する以外の選択肢が無いと言う方が正しいかな。

まさしく、生殺与奪権を握られている訳だし。

「むう……。ルージュ様がそこまで仰るのでしたら、その男を外せとは言いません。ですが、せめて女性兵だけはお連れ下さい。ルージュ様程のお力はございませんが、寝ずの番、周辺警戒でしたらお役に立つはずです」

あ、一応ルージュって実力者って触れ込みだったね。

アホの子の印象しかないから、忘れていたけど……。

「それならば不要だ。彼らは私よりも強い。私に劣る者なら、足手纏いにしかならん」

「まさか!?ルージュ様よりも強いですと!? ……ルージュ様、失礼ですが、少々視野が狭くなっておられるのではありませんか?そのように何の威圧感も無い男が、ルージュ様より強いなどとは到底信じられませぬ」

威圧感?ああ、それなら意図的に切っていますよ。

ルージュ?ああ、それなら足の小指一本で殺せますよ。

《仁様、今何か怖い事を考えなかったか?冷や汗が止まらないのだが……》

ルージュからの念話。

《ルージュを殺す方法を少し考えていた》

《ひっ!?》

《冗談だ。どのくらい実力差があるか、考えていただけだ》

《そ、それなら良いのだ……》

そう言いつつ、ルージュの足が震えているのが見える。

「ルージュ様。よろしければ、その男の実力を測らせてはいただけませんか?ルージュ様を任せるに足る護衛なのか、確認したく思います」

領主の提案を聞き、ルージュから再びの念話。

《仁様、許してくれ!態とじゃないんだ!》

《罰なら私が受けます!ルージュ様をお許しください!》

ルージュとミネルバが必死になっているのは、俺を相手に貴族関連のトラブルを招いたからだ。

しかし、今回のはトラブルと言うより、起こるべくして起こったイベントだよな。

《今回の件は領主の言い分も間違ってはいない。俺が嫌いなのは、理不尽な貴族の言い分だけだから、そうでなければ文句を言うつもりはない》

《《ほっ……》》

俺がルージュと行動を共にすると決めた時点で、想定できる理(・)不(・)尽(・)で(・)は(・)な(・)い(・)イベントだ。

それに文句を言うのは、それこそ理不尽である。

「頼んでも良いか?」

「ああ、面倒だから、好きなだけ兵を呼べ。全員まとめて相手してやる」

ルージュと領主に向けて冷静、かつ自信満々に宣言する。

凄腕の冒険者アピールだ!

「だ、そうだ。彼の相手になると思う者を呼ぶと良い」

「そこまでの大言、後悔することにならなければいいですな」

そう言って領主が集めたのは、計19人の女性兵士。

人前で戦うのもどうかと思うので、領主邸の中庭で戦うことになりました。

「これだけで良いのか?それも、全員女性のようだが……?」

「構いません。彼女達はルージュ様の護衛にと考えていた兵士です。彼女達全員を相手にして勝てるようなら、足手纏いだというルージュ様のお言葉が正しいと言う事になります」

「なるほど、理に適っているな」

ルージュが納得したように頷く。

意外だ。……正直、あんな風に挑発的な事を言ったら、ムキになって兵士を総動員してきてもおかしくないと思っていた。

しかし、あの領主は冷静に、自分に必要な確認をすることを徹底した。

これはスカーレットの見る目が正しかったと言う事か?

配下になった当初のルージュよりもまともだぞ?

「大勢で1人を囲むのは正直気が進まないが、皇女様を任せる以上手加減は出来ない。刃を潰した剣だが、まともに当たれば軽傷では済まんぞ」

リーダー格っぽい女性兵が言う。

「いらん心配だ。怪我をする気もさせる気も無いからな」

「まさか?その恰好で戦うというのか?鎧は、武器はどうした!?」

俺が武器を持たず、軽鎧すら着けていない事に驚くリーダー(仮)。

「いらん」

「……本気のようだな。良いだろう。我々を舐めた事を後悔させてやる」

そして、領主の合図で試合が始まった。

「<恐怖>」

試合形式の細かい説明は不要だよね?

もう終わったから。

「『範囲清浄(エリアクリーン)』」

本邦初公開。

<生活魔法LV3>の『範囲清浄(エリアクリーン)』だ。

効果は読んで字のごとく、指定範囲をまとめて『清浄(クリーン)』する。消費MPは指定した範囲のサイズによって決まる。

……ええ、女性兵の皆さんはそういう状況です。

こうして、俺達は何事も無く『常盤の街』を後にすることになった。

領主も俺の実力を認めてくれ、「こ、これなら……、ルージュ様をお任せしても、あ、安心ですな……」と言ってくれたし、意識を取り戻した女性兵の皆さんは、ルージュに……俺に同行することを泣いて拒絶していた。

女性兵の皆さん、俺が近づくだけで震え、腰を抜かすのは兵士としてどうかと思うよ?

「ご主人様、1つ聞きたい事があるんだけど、良い?」

「おう」

「ご主人様、最近『英霊刀・未完』使ってる?」

「のう」

ミオの質問は出来れば聞かれたくない事だった。

「ついに気付かれてしまったか。ああ、ここ最近、全くと言って良いほど、『英霊刀・未完』を使っていない事に……」

「大物を相手にする時、ご主人様って素手で戦うし、悪目立ちするから、普段は見える場所に持っていないじゃない?さっきの決闘だけの話じゃなくて、ここ最近、使っているところ見ないなーって思って……」

まさしく、その通りだ。

ぶっちゃけ、剣で戦うよりも素手で戦う方が得意なので、ここ一番では素手を選ぶ。

神話級(ゴッズ)になり、存在感の増した『英霊刀・未完』は普段使いするには目立ちすぎる。よって、使う機会が激減してしまったのだ。

下手をすれば、聖魔鍛冶師(ミミ)の造った女王騎士(ジーン)用装備、『聖剣・アルティメサイア』よりも使ってないかもしれない。

「一応、人目のない場所で訓練する時には使っているけどな」

「はい、神話級(ゴッズ)同士の訓練、お相手させていただくことはあります」

「そうですわね。私(わたくし)も見ていますわ」

安全が確保された場所なら、マリアやセラも模擬戦に付き合ってくれるからね。

訓練を見ていなければ、使っているところを見る事も無いよな。

「あ、使ってはいるんだ」

「初耳です……」

個人訓練を見ていないミオ、さくらは知らなくて当然だ。

《ドーラはしってるー!》

ドーラは時々見に来る。

……どちらかと言うと、俺に付いて来ていると言った方が正しいか。

「ただ、実戦では全く使っていない。流石に災竜相手じゃ力不足だし、丁度いい相手もいないしで、使うタイミングが無いんだよ」

「災竜相手に素手で力不足にならない事の方が驚きなんだけどね」

それは今更な話だな。

「よし、決めた。次に出てきた魔物相手に『英霊刀・未完』を使う。とにかく、久しぶりに実戦で使ったという実績が欲しい」

「随分と雑に決めたわね。どう考えてもオーバーキル確定じゃない」

《ごしゅじんさま、でたよー?》

言うが早いか、比較的近くで魔物が出現(ポップ)した。

いくら帝国軍が魔物の掃討をしていると言っても、定期的に出現(ポップ)する魔物の完全な殲滅は困難だ。

ゴブリン

LV3

<身体強化LV1><棒術LV1>

備考:緑色の子鬼。魔物の中ではトップクラスに弱い。

「え?よりにもよってここでゴブリンなの!?」

「普通に考えて、神話級(ゴッズ)を使う相手ではありませんわよね」

「懐かしいな……」

思えば、この世界に来て最初に倒した魔物もゴブリンだった。

「思えば、遠くに来たものだ」

「え?何しみじみ昔を思い出しているの?倒すの?倒さないの?」

「倒す」

俺は『英霊刀・未完』を抜き、ゴブリンに向けて跳躍する。

「グギャ!?」

驚くゴブリンを無視し、<手加減>を使いつつ刀の峰でゴブリンを打ち上げる。

「ゴゲッ!」

100m近く飛んだゴブリンを追って俺も跳ぶ。

飛ばされたゴブリンよりも俺の跳躍の方が速いので、直ぐにゴブリンを追い抜く。

そして、空を駆けるスキル、<天駆(スカイハイ)>によって空中で方向転換し、ゴブリンと正面から向き合う。

「はあ!!!」

飛んでくるゴブリンに向け、『英霊刀・未完』を振るう。

「グギャアァァァ……」

断末魔は長く続かず、ゴブリンの蒸発ともに消えた。

あ、魔石……は要らないか。

「ただいまー」

戦闘を終えた俺は馬車に戻る。

「清々しいまでのオーバーキルだったわね」

「最初の一撃、態々<手加減>を使っていましたわね。明らかに不要でしたわ」

《ごしゅじんさますごーい?》

ドーラ、無理して褒めなくても良いんだよ?

「これで、『英霊刀・未完』を実戦で使っていないという問題は払拭できたな」

「できた……かなぁ……?」

ミオが首を傾げる。

出来たって事にしておいて。

「……改めて、活躍の機会を与えてやりたいな」

「それが良いと思うわ」

丁度いいボスキャラいないかな?

「後、セラにも活躍の機会を与えてやりたい」

「私(わたくし)ですの!?」

「セラもここ最近、戦闘という戦闘をしていないだろ?」

元々、戦力となる奴隷として購入したのに、最近は大食いキャラ以上の活躍をしていない。

細かい相手はマリアが、大物は俺が倒しているからな。

「いえ、ご主人様と行動していない時は色々な相手と戦っていますわ」

「そうなのか?」

「一応、この中では一番冒険者として活動していますし、レアスキルを持った魔物も倒していますわ。コレとか、コレとか……」

「知らなかった。これ、セラが手に入れてたのか……」

俺は大量のレアスキルを持っているが、その内の半分以上は配下が集めた物である。

時々、いつの間にか増えていたレアスキルを眺めるのが、隠れた趣味の1つだ。面白そうなら、使ってみることもある。

「最初の頃は活躍の機会を求めていたと思ったんだが……」

セラは奴隷にした当初、活躍の機会を今か今かと待ち望んでいた。

「過去の話ですわ。今は戦力が過剰になり過ぎているので、ご主人様の前で活躍するのは半ば諦めていますわ。ただ、何時でも戦えるよう、鍛錬は怠っていませんわよ」

「それはスマン」

現時点で、セラに活躍の場を与えるのは難しそうだよな。

「そうだ!同じく活躍の機会が無い『英霊刀・未完』をセラに持たせて戦わせれば、一石二鳥になるのでは!」

「ご主人様、『英霊刀・未完』はご主人様専用装備だからね?効果が無効になるわよ?」

そうだった。

普段は使わない種類の武器(しかも固有能力全無効)で戦わせたところで、どちらも活躍したとは言えないよなぁ……。