寒い……
暗い……
寒い……
眠い……
熱い……
暑い……
寒い……
眠い……
暖かい
甘い
美味しい
苦い
暖かい
美味しい
もっと
もっと
「もっと……」
「カース坊ちゃん! 坊ちゃん!」
「マリー……?」
「そうです! 私です! マリーです!」
「おはよ……」
「おお、坊ちゃん……」
「おやすみ……」
「ええ、ゆっくり休まれてください……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
ついに坊ちゃんが意識を取り戻された。
昨夜のコーちゃんの行動が効いたのだろうか。きっともう大丈夫だ。
起きられた時のために何か食べやすいものを用意しておかねば。
ああ、坊ちゃん……
「やっと起きたのね。こんなに心配させて……」
「ええ、やっと……私は外に行ってきます。お嬢様はここをお願いします。」
「それはいいけど、危険な所に行くの?」
「いえ、そこら辺です。すぐ戻ります。」
「そう、気をつけてね。」
「ええ、行って参ります。」
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
カムイはマリーに付いて行き、コーネリアスはカースの側にいるようだ。
数時間後、マリーは戻ってきた。時刻は夕方。
「ただいま帰りました。」
「おかえり。」
「ピュピュイイ」
「ガガウガ」
「では私は料理をしますので、お嬢様は坊ちゃんをきれいにしてあげてください。」
「ええ、任せておいて。」
「目覚めおったか。」
「村長(むらおさ)のおかげです。ご意見ありがとうございました。」
「ふむ。そんなこともあるものか。儂も勉強になったものよ。」
「このご恩は忘れません。」
「なに、場所を貸しただけのこと。その上こちらには思いがけぬ時期に我らの飲み薬が手に入った。残ったうちの半分は坊ちゃんにくれてやってもよいぞ?」
「その辺りの判断は後ほど本人にさせます。本当にありがとうございました。」
そして取ってきた食材、獲物を手早く解体し、大鍋で煮込むマリー。肉、野菜、そして調味料。どれも見慣れないものばかりだ。
マリーが煮込み始めて二時間。再びカースが目を覚ました。
「おはよ……」
「カース、やっと起きたわね。この愚弟! 心配したんだから!」
「姉上……よかった。助かったんだね……元気?」
「当たり前よ! 人の心配なんかしてないでアンタも早く元気になりなさい!」
「はは……お腹が空いたよ……」
「待ってなさい。マリーが美味しいものを作ってるから。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「コーちゃん、カムイ。待たせたね。カムイは楽園からわざわざ来てくれたのか……ありがと……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
二匹に両側から顔を舐められるカース。みんな嬉しそうだ。
「坊ちゃん、お待たせしました。今日のところはスープだけお飲みください。」
「やあマリー……心配かけたね。おかげで僕も姉上も命拾いしたようだね。ありがと……」
「まだ喋るのもお辛いでしょう? それよりもゆっくりこれを飲んでください。」
「私が飲ませてあげるわ。アーンしなさい!」
少し照れながらも口を開けるカース。両手を持ち上げることすらできないほど衰えている。わずかお椀一杯のスープを飲むのに十五分。
「美味しかったよ……寝るね……」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーネリアスとカムイは添い寝するらしい。特にコーネリアスはカースの上でクネクネと踊っている。かなり嬉しそうだ。
「ありがとうマリー。本当に助かったわ。」
「いえ、お嬢様が持ってこられた秘蔵のポーションがあってこそです。やはり人間には人間の薬が最も効くのだと思います。」
「そうなのね。ねぇマリーはこれからどうするの?」
「もちろんクタナツに帰りますよ。坊ちゃんとお嬢様、コーちゃんとカムイで帰りましょう。」
「よかった……カースが元気になったらクタナツなんて近いものよね。今回往復してよく分かったわ。カースの魔力って本当にとんでもないのね。」
「私もそう思います。早く帰りたいものですね。後は坊ちゃん次第です。」
どうやらマリーにとって故郷とはクタナツのことらしい。