そして翌日。
昼前と言われたなら午前十時には王城の門をくぐらなければならない。
「カース、私待ってるからね。城門の前で待ってるから!」
アレクは馬車に同乗し、城門前で降りた。コーちゃんとカムイもだ。すまんな。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
馬車は王城の門をくぐりさらに奥に行く。
やがて止まったのは、いつか来た覚えのある場所だった。ここからの歩きは長いはずだ。
メイドさん、と言うより召使いさんと言った雰囲気の女性に案内されるがままに歩く私。
今から行くのは控え室か、応接室か、はたまた王の間か。
この廊下は覚えがある。あの吊り天井の部屋に続く道だ。今の私は吊り天井なんか使わなくても簡単に殺せるぞ?
そのまま豪華な扉の前で待つよう言われた。吊り天井の部屋はここからまだ先だが?
うお、扉が内側に開き始めた。これは中に国王がいるパターンだ。落ち着かないと。
扉が開ききった時、再び横から召使い風の女性に前へ進むよう言われた。先に言っておけよ!
くっ、まじで王の間じゃないか。両サイドには近衛騎士っぽいのとか、重臣っぽいのが並んでいる。どこまで進めばいいんだ?
「そこまで! そこで臣下の礼をとって待たれよ!」
目の前には小高い段。あそこに国王が来るわけか。私は片膝をつき臣下の礼をとる。
くそ、だりーな。早く出て来いよ。
「王太子クレナウッド・ヴァーミリアン・ローランド殿下、ご入来!」
何? 王太子? 兄上が近衛を務めてるって言う……どんな奴なんだ?
「カース・ド・マーティン。面(おもて)をあげよ。」
さて、どんな奴だ?
え? 国王そっくりじゃないか。違うのは筋肉と髭の濃さと顔のシワぐらいか。親子ってすごいな。
「さて、マーティンよ。そなたをここへ呼んだのは聞くべきことがあるからだ。すぐに終わること故、素直に答えるがよい。直答を許す。」
「はい。」
「エルフの飲み薬、そなたはいくつ所有しておるか?」
は? あの薬か? 王家はエリクサーだって所有してんだろ? あんなヤバい薬が欲しいってか?
「私は持っておりません。祖父アントニウスから聞かれたかも知れませんが、姉エリザベスが管理しております。」
わざわざここで聞くことじゃないだろ。
「それは聞いておる。エリザベスが五本ほど所有しており、マーティン家、ゼマティス家へ一本ずつ提供し、王家へも一本献上。残る二本のうち一本の行き先は決まっており、最後の一本を自ら所有すると。」
なら何で聞いてんだよ。
「それで全てなのだな? 隠し立てするとためにならぬぞ?」
「全てかと聞かれますと分かりません。姉が管理しているものですから。姉に聞かれた方が早いかと存じます。」
私は魔力庫が使えないんだよ! だから姉上に丸投げしたんだよ! 全部で五本だなんて知るかよ……
「すでにウリエンを通じて聞いておる。あの娘はウリエンには嘘をつかぬからの。その上でそなたに聞いておるのだ。それで全てなのだな?」
「何回聞かれようとも、分からないとしか答えられません。姉が言うことが真実ではないかと愚考いたします。」
「ふむ。ならば信じよう。では本題だ。そなたは北の山岳地帯にまで赴いた。間違いないな?」
「はい。行きました。」
「もう一度赴くことは可能か?」
「理論的には可能ですが、実現は限りなく難しいかと思います。それこそ姉に命じられた方が確実かと存じます。」
行けるわけないだろ! クソが! 私を吊るし上げたいってのか!?
「なぜだ? そなたは父、国王陛下もおそ、認めるほどの魔力を持つのであろう?」
だったら分かるだろうがよ! その魔力がねーんだよ! クソが!
「申し訳ございません。大変不名誉な事情がございます故、この場にて申し上げることが叶いません。何卒ご慈悲をいただけないでしょうか。」
そもそもこっちは十三歳だぞ?
それをこんな場に引っ張り出しやがって!
普通ロクに受け答えなんかできるかよ!
「ふむ。それもそうか。ウリエン!」
「はっ!」
兄上、いたのか。
「かの者を我が部屋へ連れて参れ。直ちにな。」
「はっ!」
「では皆の者。これまでだ!」
部屋中の人間が臣下の礼をとった。私もそれにならう。結局何がしたいってんだ?
王太子が退出し、部屋の空気が由緩む。
「カース。行こうか。」
「うん。」
こんな何気ない言葉でも兄上は絵になる。むしろ兄上が王太子になればいいのに。