兄上は意外に早くアレク達を連れてきてくれた。この広い王城でよくもまあ。
「王太子殿下。初めて御意を得ます。フランティア領クタナツ騎士長アドリアン・ド・アレクサンドルが長女、アレクサンドリーネにございます。この度は私までお招きにあずかり恐悦至極に存じます。」
「クレナウッド・ヴァーミリアン・ローランドだ。よく来てくれた。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
アレクの挨拶は完璧だな。かっこいいぜ!
コーちゃんとカムイもきちんと挨拶できたな。えらいぞ。
「フォーチュンスネイクのコーネリアスと、フェンリル狼のカムイです。」
「うむ。よく来てくれた。ほほう、指輪を首輪に加工しおったか。罰当たりめ。」
そして食事、次々と料理が運び込まれてくる。ついでだ、頼んでみるかな。
「お酒をいただいてもいいですか? うちのコーネリアスはお酒が大好きなんです。」
「いいだろう。用意してやれ。」
「かしこまりました」
ありがたい。コーちゃんも嬉しそうだ。
「ピュイピュイ」
そして和やかな雰囲気で昼食をいただく。さすがに美味い。これで毒入りだったら泣くぞ。
「そう言えばカースよ。その首輪はどこで加工したのだ? 王都にそのようなことができる鍛冶屋がいたとはついぞ知らなかった。ぜひ誼(よしみ)を通じておきたい。」
「これは僕がやりました。金属を操る魔法は得意だったものですから。」
もうカース呼ばわりか。グイグイ来るのな。
「ほおぉ。金操か。そう言えばアレクサンドリーネ嬢も武闘会で金操を使っておったな。つくづく惜しいな。」
「もったいないお言葉です。」
「姫様がご到着されました」
そんな風に話をしていたら来客か?
「父上、珍しいお客が来ていると。」
「うむ、こっちだ。カース、アレクサンドリーネ嬢。紹介しよう。二女のティタニアーナだ。」
私とアレクは立ち上がり挨拶をする。
「カース・ド・マーティンです。」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。お目にかかれて光栄でございます。」
「ティタニアーナ・スカーレット・ローランド。貴方がウリエンの弟。ならば私の弟になる。姉上と呼ぶといい。」
「は、はあ、どうも……」
「それにしても大きな狼。きれいな毛並みをしている。フェンリル狼、名前は?」
「カムイと言います。」
「ガウガウ」
二女はカムイを撫でながら話を続けるようだ。
「エリザベスはよく助かった。エルフの飲み薬もよく手に入った。貴方はいい弟。」
「はあ、どうも。」
口数が多いのか少ないのか分かりにくい喋り方だな。表情も変化にとぼしいし。でも兄上の方を見るときだけ全然違う。露骨に嬉しそうな顔をしている。
姉上と同じ年齢なのにシャルロットお姉ちゃんより出るとこが出てない。身長も私と同じぐらいだしとても年上に見えないな。
「ウリエン争奪戦は近い。もうすぐ参加者も締め切り。貴方も見に来るといい。」
「はい。もちろん行きます。」
「私も行きます。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「アレクサンドリーネ。カースが私の弟なら貴方は私の妹になる。いつでも遊びに来て欲しい。」
「もったいのうございます。実現するなら喜ばしいことかと存じます。」
「実現する。エリザベスは強い。しかし弱点だらけ。私の勝ちは動かない。」
「ティタニアーナ姫様の勝利を応援しております。」
アレク……思ってもないことを……
「面白くなってきたな。カース、賭けをせぬか?」
「賭けですか? 優勝者でも当てますか?」
「そうだ。優勝者を当てた方の言うことを聞くというのはどうだ?」
実現可能な範囲を考えると私の方に旨味が大きい賭けだ。まあいいか。
「ある程度なら構いませんが何でも言うことを聞くとはお約束、できません。それでもよろしければ。」
「当然だ。私としても不可能なことを言うつもりはない。さあ誰に賭ける?」
「もちろん姉、エリザベスに賭けます。」
「私は……ウリエンだ。」
え!? 何それ!?
「実は今回の争奪戦、ウリエンにとっては得るものがない。よって父上、国王陛下はウリエンの希望により参加を認めたのだ。これによりウリエンが優勝したなら父上がウリエンに褒美を与えることになっている。」
何だそりゃ。兄上もいい加減鬱陶しくなったのか? 優勝して誰も近寄れないようにしてもらうとか?
しかし……そんなの兄上が優勝するに決まってんじゃねーか! 参加者を確認する前に賭けた私が間抜けだったか……
「男性の参加者は兄上だけですか?」
「そうだ。と言うよりウリエン以外は参加不可だ。」
兄上を狙う男までいるのかよ……アレクも参加するって言うし、兄上や姉上と当たらなければいいけどな。
帰りの馬車にて。気になったのでアレクに聞いてみる。
「あのお姫様の魔力はどうだった?」
「それなりに大きいと思うわ。たぶんエリザベスお姉さんと同じぐらいよ。さすが王族ね。」
へー。王族も小さい時から経絡魔体循環を受けてるって話だったな。そりゃ大きくもなるか。
姉上には負けて欲しくないが……兄上は一体何を考えているんだろう……