『それでは気を取り直して三回戦です! 第一試合! 一人目はァー! ティタニアーナ・スカーレット・ローランド様! 先ほどは王家の力を存分に見せていただきました! その結果、愛する者と戦わなければならないのは何という皮肉か!
二人目はァー! ウリエン・ド・マーティン選手! 女性の中にただ一人の男性選手! 何を思って参加したのでしょうか! 忠義を尽くすべき王族を相手に力を発揮できるのかぁー! 双方構え!』
『始め!』
『ウリエン、あなたとは戦いたくない。負けて欲しい。』
『ティタニアーナ様、私もあなた様とは戦いにくいです。負けてください。』
『陛下にどのような褒美を望むのかは分からないが、私が何とかする。だから負けて欲しい。』
『そうはいきません。大した望みではありませんが、私は勝たなければならない。』
二女のやつ兄上を買収しようってか?
まあ兄上が何を望んでいるかによるんだろうが。
『ティタニアーナ様の必死の買収工作もウリエン選手には通用しなぁーい! 本来戦いは手段であって目的ではない! 話し合いで解決できるならそれが最上です! しかしこの争奪戦が開催されたからには! 参加したからにはもう! 戦うしかないのでしょう! 戦いそのものが目的の選手に聞かせてあげたいです!』
『まあお遊びの大会じゃからの。買収でも論戦でも何でもいいわい。』
『しかし、ますます分からんな。一体なぜわざわざ参加したのか。』
おっ、いつの間にやら戦いが始まっている。兄上は木刀で魔法を切ってるじゃないか。すごいぞ。
しかし二女の奴は若干手緩いんじゃないか? そんなんじゃ兄上には勝てんぞ。兄上が欲しいなら容赦なくガンガン行かないと。兄上が自分に手を出しにくいことすら利用して力を見せないとゲットできないぞ?
アレクを見習えってんだ。私相手に全力でぶつかってきてくれたじゃないか。二女は分かってないなぁ。
『さぁー状況は膠着しております! いや、むしろティタニアーナ様の魔力だけがズルズルと減っているのではないでしょうか!』
『近衛騎士や無尽流の高段者なら剣で魔法を切るのは難しいことではない。実際にはわざわざ切るより軽く逸らす方が武器や体力の消耗も少ないはずじゃがの。』
『それができるのは相当に高位の者だな。近衛騎士としてはまだまだ新人のウリエン選手には難しいだろう。』
そういうものか。まあ魔法の種類にもよるよな。それにしても動きがない。せっかく兄上の出番なのに詰まらんぞ。
「アレクだったら兄上とどうやって戦う?」
「難しいわね。近寄ったら負け。離れても魔法が当たらない。結局正攻法しかないのかしら?」
「そうなるよね。てことは姉上みたいに無理にでも魔法を使いまくって攻めまくるしかないのかな。」
「そうなるわね。お兄さんはお姉さんほど魔力が高くないのが勝機かしら。」
うーん、それにしても退屈な対戦だな。兄上はこのまま二女の魔力が切れるまで防御するつもりかな。もしかして真面目な兄上のことだし、二女に攻撃を加えられないんじゃないか?
『おぉーっと! ティタニアーナ様! 魔法をやめて薙刀を抜いたぁー! ウリエン選手に接近戦を挑もうとしておられるぅー!』
『意外と有効じゃな。ウリエン選手の武器はただの木刀。加えて間合いも違う。いけるかものぅ。』
『しかもウリエン選手がティタニアーナ様に剣を向けられるか。それが問題だ。』
二女の薙刀か……何でできているんだろう?
『ティタニアーナ様は間合いを詰めようとしますが、ウリエン選手は武舞台を広く使い巧みに逃げてます! 見応えが全くありません!』
『ううむ、ウリエン選手は本気で逃げておるのか、戦術として逃げておるのか……』
『覚悟の上の参加なのだろう。それなら戦術ではないだろうか。』
結局兄上が捕まらないから魔法も併用し始めたか。飛斬や飛突まで使ってやがる。確か王族は全ての学校のカリキュラムを履修してるんだったか。やるな。
さらに風球や風斬など見えにくい魔法まで併用してやがる。見えにくいのに、なぜか私にも分かってしまった。岡目八目とはこのことか。
『王太子殿下……今までお世話になりました!』
どうした兄上!?
次の瞬間兄上は木刀を二女に投げつけた。あっさりと防がれたが、その時には既に二女の目の前にまで詰め寄っていた。身体強化や風の魔法を併用しているな?
二女は薙刀を振り回し牽制するも意味を成さない。光源による目眩し、その隙に後ろを取られ……
そのまま首を絞められた。チョークスリーパーのような形だ。
二女は薙刀で背後を攻撃しようとするが、ロクに力を込められない。やけくそなのか薙刀を空中に放ってしまった。
『おおーっと! これは勝負あったか! ウリエン選手の意味深な宣言から電光石火の首絞め! 頼みの綱の薙刀も手放してしまいました!』
『ウリエン選手……どこまでも甘い男よ……じゃがそんな孫が……ワシは大好きじゃあ!』
『近衛騎士としては当然かも知れんがな。ティタニアーナ様に傷を付けずに勝つつもりのようだ。』
兄上の力なら絞め落とすまでもなく首をへし折れるよな。まあ、おじいちゃんの言うようにお遊びの大会だからいいんだろうけど……
なぜ参加したんだ兄上?
おっ、二女の抵抗が止んだ。手が力なく垂れ下がってしまったぞ。兄上は手を緩め、二女を……
場外へぶん投げた。いや、投げただけじゃない! 重圧まで使って二女を場外へ叩き落とした! 兄上らしくないことばかりだ。
あっ! 分かった。二女の奴、自分ごと兄上を貫くつもりだったな? 放り投げた薙刀を金操で動かしてまで。だから兄上は二女を場外に放り投げたのか。どちらもやるな。特に二女、少し見直したぞ。
『勝負あり! ウリエン選手の勝利です! ではここで改めて聞いてみたいと思います! ウリエン選手! 何か言いたいことがあるのではないですか!?』
『ええ。ここにはいらっしゃらない王太子殿下! 今日まで下級貴族に過ぎない私をお引き立ていただきましてありがとうございました。本日をもってお暇をいただきたいと思います。ティタニアーナ様に手をあげた私に近衛の資格はありません。』
『何ということでしょう! 国中の若者が憧れる地位! 近衛騎士を自ら辞めようと言うのですか!? 王太子殿下もティタニアーナ様もお望みにはならないのではないでしょうか!?』
『確かにそうかも知れません。そもそも私の一存で辞められるはずもありません。私が優勝した際の望み、それは退役してクタナツに帰ることです。』
なるほど。少し納得。兄上ほどの人材が容易く辞められるはずがないもんな。二女に頼んだところで、自分のもとを離れることを許すはずもないだろうし。
じゃあ何で近衛学院に通ってまで近衛騎士になったんだって話しだけど、そんなの兄上の勝手だもんな。
『そうでしたか! 納得はできませんが、事情は了解いたしました。場内からは「行かないでー!」「私も連れてってー!」「やめないでー!」などの悲鳴があがっております!』
『そうじゃったか……寂しくなるのぉ……』
『近衛騎士としての経験は今後の人生においてかなり有利となる。それを経ずしてクタナツに帰るより何倍も有意義だったろうよ。』
なるほど!
ただの騎士として帰るより、元近衛騎士として帰った方が就職に有利って考え方か! さすが兄上! 行き当たりばったりの私とは大違いだ!
『ついでに言っておきます。私はこの大会の優勝者と結婚します。それは私が近衛を辞める条件と引き換えに陛下より提示されたものです。よって王国において何より確実な約束と言えるでしょう。
エリザベス! アンリエット! どちらが勝ち上がってこようとも私は負けん! 性根を据えてかかって来い!』
ほぉー。完全に兄上オンステージだな。ホント絵になる男だわ。姉上は今頃目をハートにして話なんかロクに聴いてないんだろうな。かっこよすぎるよな。そりゃ姿絵も売れるわ。