それからはアレクと二人で破壊に勤しんだ。私が全力を出せばすぐ終わるのだが、それでは面白くない。せっかくの機会なのだから魔法の威力を確かめながら丁寧に壊している。アレクも最初はやみくもに破壊していたのだが、やがてどこを壊すのが効率がいいのかを考えながら魔法を使うようになった。えらい!

「そう言えば、地下深くに総代教主がいるんだったね。地下まで壊してしまったら毒が漏れたりしそうだから、下は壊さないようにしようか。」

「それもそうね。ところで毒って燃やせないのかしら? カースの火球なら何でも燃えそうに思えるわ。」

「たぶん燃やせるよ。でも問題は燃やした時に出る煙なんだよね。鉄や岩を燃やしてもほとんど煙とか出ないから分かりにくいけどね。毒を撒き散らかすことになるかも知れないからね。」

「そうなのね。燃やせばいいってものじゃないのね。」

かなりの高温で燃やさないと危ないだろうな。実験もできないし、やれやれ。

あっ、一つ疑問が浮かんだ。

あいつらあの猛毒をどうやって持ち運びしてるんだ? 直に触れるはずがない。ポーション類を入れる瓶なのか? それとも強化ガラス的な容れ物でもあるのか?

てことは、保管してる部屋とかもあるはずだ。例えば原液では危なすぎて持ち運びすらできないから何かで薄めてポーションのように管理しているって可能性はある。まあいいか、もし見つけたらキープしておこう。

さーて、だいぶ壊したな。そろそろトドメと行こうか。

「アレク、そろそろ外に出ようか。潰されたら危ないからね。」

「そうね。外から壊すのね? うふふふ。」

おや? さては壊すのが楽しくなってきたな? 悪い子だ。

「じゃあ建物の周りは水壁で覆ったから壊し放題だよ。思いっきりやっていいよ。」

「ええ! いくわよ!」

『降り注ぐ氷塊』

おお!

珍しい上級魔法だ。アレクが普段使う氷塊弾が隕石のように降り注ぐ魔法だ。範囲も威力も凄いのだが、地形を変えてしまう上に相手が人間や魔物だと逃げられるからあまり出番はない。上から降り注いでくるんだから避けるのは難しくないんだよな。

「やるね。お見事。これまでかな。」

「ありがとう。少しやり過ぎたわ。もう魔力がなくなってしまったわ。」

これで狂信者どもに少しでもショックを与えられればいいのだが。うまいこと我に帰ってくれないものか。

「まあ座っててよ。次は中等学校に行こうか。サンドラちゃんが心配だからさ。」

「そうね。何万人もの信徒が暴れてるとなると、騎士団では対応しきれないわよね。」

上空から見るとあちこちから火の手が上がっている。石造りの家が多いはずなのに、結構燃える部分もあるもんだな。あちこちに白い奴らがひしめいている。キモっ。

さて、中等学校に到着。

正門は破られており、白い奴らは蹂躙の真っ最中のようだ。サンドラちゃんは大丈夫か? こんな学校の教師は凄腕ってのが定番だが、ここはどうなんだ?

『サンドラちゃーん! いるなら合図してー!』

拡声の魔法を使い学校中に声を届かせる。サンドラちゃんに聴こえればいいのだが。

おっ! 空に火球が打ち上がった! あれだな?

現場に急行、いた。孤軍奮闘している!

『落雷』

サンドラちゃんを囲む白い奴らを直撃。

「やあサンドラちゃん。大丈夫そうだね。」

「カース君は私が危ない時、いつも助けてくれるのね。今回も来てくれるって分かってたわ。ありがとう。」

「いいタイミングだったみたいだね。よく頑張ったね。」

「もう魔力がギリギリよ……」

『浮身』サンドラちゃんをミスリルボードに引っ張り上げておく。

「無事みたいね。本当はもっと早く来れたのよ。カースが教団潰しなんかしてるから。」

「え!? もう教団を潰しちゃったの!? じゃあこいつらはただの残党!?」

「いやいや、そうでもないよ。幹部クラスはまだまだ残っていると思うしね。とりあえず建物だけ潰しておいたの。」

「相変わらずね……今からどうするの?」

「うーん、まずはゼマティス家に帰ろうか。二人とも魔力がもうないもんね。」

「そうね。ちょっとやり過ぎちゃったわ。」

街は大混乱だが、上空を移動する分にはそこまで大変ではない。時折伝令の騎士って雰囲気の誰かとすれ違うぐらいだ。

戻ってみればゼマティス家の正門は破壊され、煙が立ち込めていた……

嘘だろ……

「伯母様! 誰かいませんか!」

「マルグリット様!」

「ピュイピュイ!」

メイドさんや御者さんがそこらに倒れている。どう見ても死んでいる……袋叩きにされたのか。

屋敷も玄関が壊されており白い奴らの姿がちらほら見える。『狙撃』片っ端から殺す。

いた! 廊下の隅で戦っている! 『狙撃』

「伯母様! 大丈夫ですか!」

「カース君……助かったわ……」

伯母さんは薙刀で戦っていたようだ。もう魔力が残り少ないのだろう。足元にはポーションの瓶が何本も転がっている。

「正門も玄関も破られたんですね?」

「ええ……留守を預かる身でありながら……完全に実力不足だったわ……」

つまり相手が強かったってことか。この伯母さんは結構やり手のはずなんだが……

「強い奴がいたんですか?」

「ええ、同じ服装だから見分けはつかなかったけど、明らかに危険な魔力を持っていたわ……」

「そいつはどこに?」

「正門と玄関を壊したらどこかに行ったわ。おそらくあちこちで同じことをしているのね……」

なるほど……広いところで伯母さんみたいな魔法使いと戦うと上級魔法一発でやられてしまうけど、屋敷の中とかなら個別に対応せざるを得ない。だから数の力で圧倒できるわけか。

うーん、こんな状態の伯母さんを置いては行けないな。アレク達も魔力がないことだし。とりあえず正門だけ塞いでおこう。

楽園の城壁用にキープしておいた巨大な岩を正門前にどすんと置く。一旦はこれでいいだろう。

そろそろ昼だし何か食べてから考えよう。そろそろ王族だって動くだろうし。