私達は校舎内にデューク様がいないかどうか、授業中にも関わらず、探した。

……やっぱりいないわね。課外授業はどこでやっているのかしら。もし分かっても、わざわざ学園を出て会いに行くのも少しおかしいわよね。

「どうするの?」

「授業を受けに行く?」

「今更?」

ジルは少し目を見開いてそう言った。

「そうよね……、じゃあ、食堂に行きましょ。魔法を使ったからお腹が減ったわ」

「今なら誰もいないだろうし、いいね」

食堂に行く度に何かトラブルに巻き込まれるんだもの。きっと、授業中の今が一番くつろげるわ。

食堂の方に足を進めた。

「エマ、いい気味だよね」

「リズ様に好かれたいからって、調子に乗り過ぎだわ」

「うざかったし、これぐらいしとかないとね」

食堂に入る前に、微かに話し声が声が聞こえてきた。

先客がいるの? まさか私達以外に授業をさぼっている人達がいたなんて。いつになったら静かに食堂でご飯を食べれるのかしら。

私は食堂の方を彼女達にばれないようにそっと覗き込んだ。

あら、どこかで見た事ある顔ね……。確か、彼女、エマに利用されてた子よね? 私の声を録音していた土魔法の、……マリカだったかしら。残り二人は、初めて見るわ。

マリカってザ・モブキャラって感じで、大人しそうな子に見えたけど、……今の彼女の表情はかなり悪役って顔ね。私もあの顔をお手本にしましょ。

「私に何でも指図してくるし、あの自分勝手な態度はうざ過ぎたわ」

「私達にやらせといて、自分がした事にしたり、本当に最低」

「人としてあり得ない。私なんか、叩かれた事あるのよ」

「エマみたいな人がリズ様を支えるなんて無理よ」

「そうね、エマはウィリアムズ家のあの女の方を支える方が向いてるんじゃない?」

「一応五大貴族なんだからアリシア様って言わないと~」

「名前を呼びたくないもの」

エマの場合は完全に自業自得ね……。それにしても、あんな気の強そうな子が泣くなんて一体何をしたのかしら。マリカの見た目からして、そんなに過激な事はしてなさそうだけど……。 

それにしても私が性格悪いって結構浸透してきているのね。素晴らしいわ。もっと、悪い噂を彼女達に広めてもらうためにも私も努力しないとね。

「ねぇ、ジル、盗み聞きって良くないわよね?」

私は出来るだけ声を小さくしてそう聞いた。

「まぁ、そうだけど……、今は状況的にしょうがないと思うよ」

「じゃあ、このままもう少し彼女達の会話を聞いていてもいいかしら?」

盗み聞きをするなんて悪女としての威厳がなくなってしまいそうな気がするのよね。

ジルは眉間に皺を寄せて、呆れた表情でため息をついた。そのまま何も言わず、彼は盗み聞きを続けた。

「あの時のエマの顔、最高だったわよね」

「本当! あの顔は傑作だった!」

「私達三人でナイフをエマに向けた時のあの怯えた顔! いつも自信たっぷりな顔してるエマがまさかあんな顔するなんてね」

「エマの鞄にネズミの死体入れた時も、震えてたよね~」

「あとさ、昨日やったエマに当たらないように一斉に壁にナイフ投げつけた時も!」

「あれは最高だった、その場で腰抜かしてさ、目に涙浮かべてたよね!」

甲高い笑い声が私の耳に侵入してくる。

なんて耳障りな声なのかしら。やっている事があまりにも卑劣で、最低なのは彼女達だわ。

「ジル、ナイフ貸して」

私は静かに落ち着いた小さな声でそう呟いた。ジルはすんなりと、私にナイフを渡してくれた。

「どうぞ。……はぁ、食堂に来ると、いつも何かに巻き込まれるね」

ジルは肩をがっくりと落とし、ため息をつきながらそう言った。