声がした。
子供の声だ。
はっとして僕は城田のスカ―トから顔を出した。
そして立ち上がると柱の裏から顔を出す。
僕たちがやってきた観客席と階段をつなぐ扉から三人の小学生がやってきた。
「誰か来た?」
城田の戸惑った声がうしろからきこえた。
ふりかえると、城田はショーツを履いていた。
「ここは、まずい」
小学生たちは扉のすぐ近くにある椅子を陣取り、携帯ゲームをはじめた。
どうやら無料で観客席が使えるために、ここを使っているのだろう。
僕は小学生たちから城田が見えないように体を壁にした。
三分ほどで城田から声がかかった。
「いいよ……」
「じゃあ行こう」
「う、うん」
同時に柱から出る。
小学生たちはまだ気づていない。
僕と城田がうしろを通過するころになって、やっと気づいた。
しかしとくに気にした様子もなくゲームへと目線をもどす。
「びっくりしたぁ……」
階段をおりながら城田が胸をなでおろした。
僕も首肯をしてから答えた。
「そうだな……城田が声出すから」
「え? わたしのせい?」
と、城田が目を丸くした。
しかし逡巡してすぐに唇を尖らせる。
「ゲームしに来たんじゃん! わたしの声、関係ないじゃん」
「でも大きかったぞ?」
「だから恥ずかしいの禁止だってば!」
二人で外へと出る。
太陽は斜めになり、風が出てきた。
ここにやってくる前よりははるかに過ごしやすくなっている。
「どうするか……」
「あ、そろそろ、わたしの家、出かけたと思うから」
「え? 明日じゃないのか?」
「金曜日は、おじいちゃん家でご飯食べるから」
「ああ……」
以前、城田の家に行ったときにきいた気がする。
「夜にはもどってくるよ、みんな……」
「なら、みんなが帰ってくる前に一度、僕はどこかに行かなきゃいけないわけか」
「そ、そうなる……あとは、このままみんなが寝るまでどこかで時間をつぶすか」
「城田の部屋に隠れてるのは?」
「ええ!?」
言ってから、僕はリスクが高いことに気付く。
城田もそう思ったのかすこし悩む。
「解散して、また夜に会うのがいいな」
「えぇ……それもイヤだ」
「でもなぁ」
我儘を言う城田に僕は苦笑いをする。
なんとなくバス停へむかって歩いていた。
「さっきから途中でやめてばっかりなんだもん」
と、城田が頬をふくらませる。
たしかに空き教室でも、柱の裏でも最後までセックスができていない。
二人ともに今日にセックスをすることはわかっている。
しかしタイミングと環境が悪いのだ。
お金があればホテルに誘えばいい。
しかしいま僕の手持ちは乏しかった。
こう考えると、エロいことをやる環境というのは限られている。
「ねぇ……したいよぉ」
歩きながら城田が焦れたようにつぶやく。
待てない。はやく僕とセックスがしたい。
そういう気持ちが城田から伝わってくる。
刺激を与えていないのに息子が出番を感じてふくらみはじめた。
「わ、わかった……城田の家、行こう」
「でも、奥谷……夜にどっか行かないといけなくなるよ?」
「それでもいい」
「う、うん……」
それからはどこか会話がぎこちなくなった。
バスに乗っているときも電車に乗っているときも沈黙が目立つ。
これから僕は城田とセックスをする。
間違いなくする。それがわかっているといつものような会話が難しい。
それは城田も同じなのか、さきほどまでの勢いはない。
こうやって改まってセックスすると意識したことで恥じらいが出てきたのだ。
奥梨駅についたときだった。
僕は思い切ってきいてみた。
「家族が帰ってくるまで、ど、どれくらい時間ある?」
「え? あ、えっと……いつも帰ってくるのは九時くらいだから」
いまは六時半ちょっと前だ。
つまりいまから城田の家に行ってとなると二時間もない。
城田ははじめてのセックスだ。二時間という時間で最後までいけるだろうか。
「無理かな……」
と、城田がつぶやく。
僕は自分でも笑ってしまいそうな返事をしていた。
「急げば」
「急ぐって」
吹き出す城田。
「なにを急ぐの?」
「そ、それは……」
「もう奥谷はエロいなぁ」
言いながら城田が駅にとめておいた自転車をとりに行った。
ロータリーで待っていた僕のほうへ来ると、自転車を僕に渡した。
「なら急ごう!」
二人乗りをしようということか。
しかしちかくに交番もあり、人通りもすくなくない。
城田もそれはわかっているらしく、ニヤリと笑った。
「途中までは、わたしは走るから」
と、カバンをおろすと自転車の籠に入れた。
そして一気に走り出す。
僕は慌てて自転車にまたがるとその背中を追いかけた。
やはり城田の足は速い。しかし今回、僕は自転車だ。
並走すると城田が僕を見て笑った。
「なんか、わたしたち変だね」
「え? なんで?」
「だってエッチしたいからってこんなに急いじゃって」
「あ、まあ……な」
商店街を折れて、人のすくない田んぼ道に出た。
城田が足をとめたので、僕も自転車のブレーキをかける。
「うしろ、乗せて」
「うん」
荷台にまたがると城田が僕の腰へと手を回した。
走ったからだろう。スポーツ少女の体は熱かった。
そして息も荒く、隆起する胸が僕の背中を覆った。
「いくぞ?」
「うん」
僕は一気に自転車を漕ぎだした。
暑かったが、風を切って走っているため気持ちがいい。
これから僕は城田とセックスする。
そう思うと気持が否応なしに高鳴っていった。