25 Hey, you might be able to make the best weapon you can.

アルトロ・ウィスター。

それがじいさんの名前らしい。

ギルドマスターを務めており、そしてまた、最高の元(・)鍛冶職人としても知られているとか……

うん。

でもやはり、どこかで見たことあるような……

僕が昔の記憶を手繰り寄せていると、ふいにアルトロが口を開いた。

「おぬし。名をなんという」

「アリオスです。アリオス・マクバ……」

「マクバ……。やはりそうか、お主があのときの……」

なんだ。

やっぱり会ったことがあったのか。

申し訳ないことに、僕はあまり記憶にないんだが……

戸惑う僕に対し、アルトロはその理由まで悟ったのだろうか、「ほっほっほ」と苦笑した。

「いいんじゃよ。お主に会ったのはもう十年以上も前……。お主がまだ幼子(おさなご)だった頃だしの」

「そうでしたか……。ですが当時のことはなんとなく覚えています」

その昔、アルトロは王都でも高名な鍛冶職人だったはず。

――アルトロの打つ剣こそ至高なり。

そういった評判もあってか、父リオンもよくアルトロを訪ねていた。たぶん、そのときに僕と会ったのだと思う。

だが、ある日アルトロは姿を消してしまった。都会の喧噪を離れ、田舎に移住しているという噂は聞いたことがあるが……まさかこの村にいたとは。 

「話は聞き及んでおる。アリオスよ。いままでご苦労じゃったな」

「…………」

「リオンめ……。当時からいけ好かない男じゃったが、まさか実の息子までをも捨てるとはの。情けない男じゃ」

「はは……。いいんですよもう。過ぎた話ですし」

ありがたいことに、現在の僕は人に恵まれている。

レイにカヤ。

あとはもう別れてしまったけれど、Bランク冒険者のユウヤも僕に優しく接してくれた。

剣聖になれなかったことは残念だ。

でも同時に、いまの生活も悪くないんじゃないかと思い始めている自分もいる。

「ほほ。あの幼子が……良い目をするようになったの」

アルトロは嬉しそうに顎髭を撫でると、改めて、僕の持ってきた素材を見下ろした。

「どうじゃ。換金するのも良いが、ワシに剣を打たせる気はないかの? 最高の質は保証しよう」 

「えっ……!?」

カヤが大きく目を見開く。

「ギ、ギルドマスターみずから打たれるんですか!? う、羨ましい……」

Aランク冒険者の彼女でさえ驚愕するなんて。

それなのに、僕だけやってもらっていいのだろうか。

「でもアルトロさん。いいんですか?」

たしか、アルトロは剣を打たなくなって久しいはず。

父いわく、それによって王都の剣の質が大きく下がったという。

理由も明かさず姿を消したアルトロに嘆息しているのを、僕も何度か目撃したものだ。

「ほほ、いいんじゃよ。おぬしなら自分の力を正しきことに使ってくれそうじゃからな」

「正しきこと……」

「うむ。まあ、このことについては追々話すとしよう」

アルトロは意味深に頷くと、改めて僕たちを見渡して言った。

「さて、剣ができあがるまでにはしばらく時間がかかる。それまでどこかで時間を潰しててもらえんかの?」