アルトロ・ウィスター。
それがじいさんの名前らしい。
ギルドマスターを務めており、そしてまた、最高の元(・)鍛冶職人としても知られているとか……
うん。
でもやはり、どこかで見たことあるような……
僕が昔の記憶を手繰り寄せていると、ふいにアルトロが口を開いた。
「おぬし。名をなんという」
「アリオスです。アリオス・マクバ……」
「マクバ……。やはりそうか、お主があのときの……」
なんだ。
やっぱり会ったことがあったのか。
申し訳ないことに、僕はあまり記憶にないんだが……
戸惑う僕に対し、アルトロはその理由まで悟ったのだろうか、「ほっほっほ」と苦笑した。
「いいんじゃよ。お主に会ったのはもう十年以上も前……。お主がまだ幼子(おさなご)だった頃だしの」
「そうでしたか……。ですが当時のことはなんとなく覚えています」
その昔、アルトロは王都でも高名な鍛冶職人だったはず。
――アルトロの打つ剣こそ至高なり。
そういった評判もあってか、父リオンもよくアルトロを訪ねていた。たぶん、そのときに僕と会ったのだと思う。
だが、ある日アルトロは姿を消してしまった。都会の喧噪を離れ、田舎に移住しているという噂は聞いたことがあるが……まさかこの村にいたとは。
「話は聞き及んでおる。アリオスよ。いままでご苦労じゃったな」
「…………」
「リオンめ……。当時からいけ好かない男じゃったが、まさか実の息子までをも捨てるとはの。情けない男じゃ」
「はは……。いいんですよもう。過ぎた話ですし」
ありがたいことに、現在の僕は人に恵まれている。
レイにカヤ。
あとはもう別れてしまったけれど、Bランク冒険者のユウヤも僕に優しく接してくれた。
剣聖になれなかったことは残念だ。
でも同時に、いまの生活も悪くないんじゃないかと思い始めている自分もいる。
「ほほ。あの幼子が……良い目をするようになったの」
アルトロは嬉しそうに顎髭を撫でると、改めて、僕の持ってきた素材を見下ろした。
「どうじゃ。換金するのも良いが、ワシに剣を打たせる気はないかの? 最高の質は保証しよう」
「えっ……!?」
カヤが大きく目を見開く。
「ギ、ギルドマスターみずから打たれるんですか!? う、羨ましい……」
Aランク冒険者の彼女でさえ驚愕するなんて。
それなのに、僕だけやってもらっていいのだろうか。
「でもアルトロさん。いいんですか?」
たしか、アルトロは剣を打たなくなって久しいはず。
父いわく、それによって王都の剣の質が大きく下がったという。
理由も明かさず姿を消したアルトロに嘆息しているのを、僕も何度か目撃したものだ。
「ほほ、いいんじゃよ。おぬしなら自分の力を正しきことに使ってくれそうじゃからな」
「正しきこと……」
「うむ。まあ、このことについては追々話すとしよう」
アルトロは意味深に頷くと、改めて僕たちを見渡して言った。
「さて、剣ができあがるまでにはしばらく時間がかかる。それまでどこかで時間を潰しててもらえんかの?」