「……ユリア?……それともイリスなのか?……」
ガイウスは戸惑い混じりに静かに問いかけた。
だが棺の中の女性は、ガイウスをただじっと見続けるだけだった。
そのためガイウスは、さらに困惑の表情を見せた。
「……ユリア……じゃないのか?……だけど、どう見ても……」
ガイウスはそこで言葉が詰まった。
するとそこまで後ろに控えていたカルラが静かに問いかけた。
「ガイウスよ、そんなにそのユリアという幼馴染に似ているのか?」
ガイウスは棺の中の女性を凝視しながら答えた。
「似ている……俺が知っているのはユリアが十三歳の頃までだけど、どう見たってこの女性はユリアだよ……」
「ふむ、十三歳の頃か……しかし、ならば見間違えることだってあろう?」
カルラの当然の問いに、ガイウスがすかさず反論した。
「いや!見間違えるはずがないよ。この目、この鼻、この耳……どうみたってこの女性は大人になったユリアそのものだよ」
ガイウスは先程までの戸惑いを捨て、はっきりと確信的に告げた。
「そうか。では何故そのユリアがここに寝ている?」
「だからそれがわからないんだ。何故イリスの棺の中にユリアが寝ているのか……わからない、本当に……」
ガイウスは再び困惑の表情を浮かべた。
すると、突然女性の右腕がピクリと動いた。
ガイウスはビクリと大きく反応した。
「……ユリア……」
ガイウスの呟きに反応したのか、女性の右腕がまたも動いた。
右腕は肘を支点にしてゆっくりと静かに動き、上がりきったところで方向を変えた。
そして右手を開いて、掌をゆっくりとガイウスの顔へと差し向けたのだった。
ガイウスは戸惑いながらも顔を近づけて女性の掌を見た。
その瞬間、掌の中心が光り輝いた。
「逃げろ!ガイウス!」
カルラの鋭い叫び声が上がった。
ガイウスはそれに脊髄反射的に反応し、身体をひねって横に倒れた。
そして、それまでガイウスの顔があったところを、一筋の光の束が通過したのだった。
光の束はいとも容易く進路の先にある壁を溶かし、何処までも長く伸びていった。
尻餅をついた格好のガイウスはそれを見て、恐れおののいたのだった。
するとそこでようやく光の束が収束しはじめ、やがて女性の掌の中に戻った。
そして光が消え失せると同時に、女性がついに口を開いたのであった。
「……お前は一体何者なの?……何故このわたくしをユリアと呼ぶのかしら?……」