1657 Lesson one thousand six hundred and fifty-four: Stun.



もはやほとんど閉じている瞼の奥で、ガイウスの瞳が輝きを失いつつあった。

「……駄目だ……意識が……」

ガイウスは、それでも右掌の炎は放出し続けた。

結果、ゼリー状の蛇のような物体はもはやほとんど動きを止めていたのだった。

ガイウスは虚ろな眼でもってそれを確認した。

「……死んだか?……」

ガイウスはゆっくりと右掌を顔の前に動かした。

そして蛇のような物体の息の根が本当に止まったのかどうかを確認した。

「……死んでる……だけど……」

ガイウスはもはや、右掌に刺さったままの蛇のような物体を抜き取る力もなかった。

だがまだ顔をわずかに動かすことは出来た。

そのためガイウスは少しばかり顔を上に向け、先程敵が出現した場所を見ようとした。

しかしギリギリまで顔を上に向けたつもりであったが、視線はさして変わらず、敵が現出した場所を捉えることが出来なかった。

「……もう少し……もう少し上に……」

ガイウスは身体を必死でよじった。

朦朧とした意識の中で必死にもがいた。

するとようやく、先程消し炭にして粉々に粉砕した、かつて首なし死体があった場所が視界に入ってきた。

「……あそこだ……もう首なし死体も跡形もなくなっているのに……あそこからどうしてあの蛇のような奴が出てきたんだ?……」

ガイウスは重い瞼を必死で開き、見た。

「……なにもない……それに、誰も居ない……」

ガイウスはその後もただジッとその場所を睨み続けた。

だがしばらくすると、ついにガイウスの意識は失われてしまったのであった。



「……アスタロト……」

イリスが、目の前の歪んだ空間から顔を覗かせた男を見て、その名を呼んだ。

するとアスタロトはにこやかに微笑んだ。

「久しぶりだね、イリス」

親しげに語りかけるアスタロトではあったが、イリスの顔には笑みはなかった。

「そうだな。久しぶり……ではあるな」

「ああ、そうだよ。君と会うのはずいぶんと久しぶりだ」

するとイリスがアスタロトを睨みつけた。

「聞きたいことがある」

アスタロトは間髪を入れずに答えた。

「何かな?」

イリスは、その間隙を作らないアスタロトの話し方に、少しだけイラついた。

だがすぐに気を取り直して問い直したのだった。

「ガイウスに聞いたのだが、お前、行方不明だったんじゃないのか?」