他の学年には可哀想だが各部門とも五年一組が代表となった。
学問、サンドラちゃん
剣術、スティード君
魔法、アレク
嬉しいことに三人とも圧倒的な差で代表の座を勝ち取ったのだ。自慢の仲間だ。
大会本番は一週間後。みんなはそれまで猛特訓、をすることもなくいつも通り過ごした。
最近の私は学校が終わったらすぐ道場に行き、日没ギリギリまで稽古に励んでいる。マリーに馬車で迎えに来てもらえばもう少し長く稽古ができるのだが、あまり差はない。
そして大会本番。校庭に各学校の代表が整列し、その周りに引率の先生が立つ。そこにエロー校長の挨拶が始まる。
「各学校の代表の皆さん。ようこそお越しくださいました。長旅で大変だったことでしょう。私、クタナツ校長の『強そうな奴はだいたい友達』ジャック=フランソワ=フロマンタル=エリ・エローと申します。皆さんはそれぞれの学校の期待を背負っておられます。全力を尽くしてください。最後の瞬間まで足掻いてください。健闘を祈ります。」
司会進行はいつも通りナタリー・ナウム先生だ。
「では続きまして前年度優勝校フランティア本校代表、ソルダーヌ・ド・フランティアさんより所信表明をしていただきます。」
「ご紹介に預かりました、ソルダーヌ・ド・フランティアでございます。我々は前年度、完全優勝を逃してしまいました。前々年度に完全優勝を成し遂げたクタナツ勢を相手にここクタナツで勝つ。それが出来てこその完全優勝だと考えております。では、御機嫌よう。」
さすが辺境伯家のご令嬢。アレクに勝るとも劣らない上級貴族ぶりだ。彼女は何部門なんだろうか。
「では学問部門を始めます。代表は試験教室へ入ってください。」
これは見学不可能なんだよな。結果が出るまで誰も中には入れない。
「並行して剣術部門を行います。代表者は前へ。」
我が校の代表はもちろんスティード君。
他校の代表者も強そうだ。どうやら総当たり戦をするらしい。
一回戦、スティード君対サヌミチアニ代表のペイパーダ・バルード君。
スティード君は一組の中では背が高い方で百五十五センチぐらいある。バルード君はそれより更に高く百六十センチはありそうだ。
開始と同時にバルード君の猛攻、スティード君は防戦一方だ。なのに少しも押されているように見えない。そうか、一歩も下がってないからだ。
三分もしないうちにバルード君の勢いが衰えた、と思った時には終わっていた。バルード君の額にはクッキリと赤い色が付いていた。
今更だが秋の大会、剣術部門は塗料を塗った固くてもろい木剣を使う。全力で頭を打ったとしても剣が砕けるためダメージはない。
また、当たった場所には色が付くため、その場所や濃淡で勝敗を決める。
こんな温い勝負だから去年スティード君は勝てなかったのか?
それから五分後にはもう一方も終わった。フランティア本校代表、 ターブレ・ド・バラデュール君が勝ちを決めた。
総当たり戦は進み残すところ最後の一戦。二勝同士の対戦、スティード君対バラデュール君だ。
彼はバルード君よりさらに高く百七十センチ近い。つまりスティード君より頭半分は大きいことになる。
開始から一分、二人とも動かない。まるで達人同士の対戦みたいだ。
先に痺れを切らしたのはバラデュール君だった。雄叫びをあげて突進する。一方スティード君はその場を動かない。カウンターを狙っているのだろうか。すぐに激突し、鍔迫り合い状態となる。カウンターは取れなかったのか。しかしよく吹っ飛ばされずに持ち堪えたものだ。
鍔迫り合いが近過ぎる……あれではどちらもまともに剣を振るえない。どうするスティード君。
その時、スティード君の体が沈み込んだ。その上をバラデュール君の体が泳ぐ。ガラ空きの胴体に向け剣を突き上げるスティード君。
バラデュール君の鳩尾にはくっくりと赤い色が付いていた。勝った!
身長差を上手く利用したな。
「それまで!」
審判の声がかかる。両者とも開始線に戻り向かい合っている。
「勝者スティード・ド・メイヨール!」
バラデュール君はスティード君に歩み寄っている。左手を出し、握手を求めているようだ。スティード君も健闘を讃えるかのように左手を差し出す。
次の瞬間、バラデュール君の蹴りが襲う。左手を差し出したスティード君の死角となるよう右脚での蹴りだ。完璧なタイミング、私なら頭に食らっている。
しかしスティード君は左手を折り曲げ肘を突き出し、彼の右脛に打ち込んでいる。
「参った。負けだ。やはりクタナツは強いな……」
足が折れたのか、座り込んだバラデュール君に周りからは卑怯だ! 恥を知れ!など罵声が飛んでいる。無駄なことを。
そこに校長先生が。
「お見事です! 最後まで全力で足掻いたバラデュール君も、そんな彼を上回ったメイヨール君も! あれが騎士を目指す者のあるべき姿です! ちなみにバラデュール君、右利きの君が左手で握手を求めたからバレたのです。次からはもっと工夫をしなさい。そしてメイヨール君、君は素晴らしい! 勝者の余裕を持ちながらも敗者を侮ることなく警戒を続けていましたね。優勝おめでとうございます!
皆さん! この二人に盛大な拍手を!」
最初は納得できなかったのか、疎らな拍手だった。やがてクタナツ校のみんなが拍手を始めると釣られたのか大きな拍手となった。